仏教医療研究会
仏教医療という言葉を聴いたとき、仏教と医療がどう結びつくのかわからないという人が多いのではないかと思います。
しかしな がら、最近アメリカで注目されているものに他人のことを思いやるという瞑想(慈悲の瞑想)がありますが、この瞑想によって幸福度が高まることが明らかにされつつあります。またマインドフルネス瞑想(気づきの瞑想)も、集中力を高め、ストレスを軽減して仕事の能率が上がるとして米大手企業の研修に取り入れられたことから大きな注目を集めています。これらの瞑想法は、釈迦の瞑想として上座部仏教(テーラバータ仏教)によって今日まで伝えられているものです。
また暖かい気持ちになっている被験者はそうでない人に比べて、被験者への謝礼を他人へ寄付したいという人が、自分で使うという人よりも多くなるという科学的研究結果も出ております。
フロイトに始まる無意識の研究は、大乗仏教で明らかにされた唯識の構造(例えばマナ識やアラヤ識)と密接な関連があることが指摘されております。
その他にも仏教経典には病気や医学の比喩が豊富に書かれており、現代医学に通じる、あるいはまだ解明されていないが現代医学の未来を開くと思われる多くの記述があります。
当研究会は、仏教経典の病気に関連する記述の研究、仏教に由来あるいは深く関連する科学的研究と現代医学との論理的整合性を討論し、現代における治療への応用や、将来を見据えたよりよい医療の開拓、実現を図るとともに、これらの討論をヒントとして創出される斬新な研究の推進を図ることを目的とします。
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代表世話人
佐々木光美(良恵) 東京医科大学
世話人
村端宏映 高野山真言宗 阿高山真言寺
村端秀映 熊本大学医学部付属病院
会則
【名称】
第1条 本研究会の名称を「仏教医療研究会」とする。
【目的】
第2条 本研究会の目的は次に掲げるものとする。
(1)仏典およびインド古典医学に記述された医療について現代医学的に考察・研究する。なおインド古典医学についても考察・研究の対象とする。
(2)現代医学に基づく他の学会・研究会と協調及び連携し、相互の発展に寄与する。
(3)会員相互の情報交換及び親睦を図る。
【事業】
第3条 本研究会は前項の目的を達成するため次の事業を行う。
(1)研究会を開催する。
(2)会員相互の情報交換の機会を設ける。
(3)その他、本研究会の目的を達成するための事業を行う。
【事務局】
第4条 本研究会の事務局を代表世話人の指定する施設におく。
【会員】
第5条 会員は本研究会の趣旨に賛同する者とする。
【役員・運営】
第6条 本研究会役員として、代表世話人1名と若干名の世話人をおく。
第7条 本研究会の運営は世話人会が行い、代表世話人が総括する。
第8条 本研究会の経費は、研究会の参加費、およびその他の収入をもってこれにあてる。
【会則の変更】
第9条 本会則は、世話人会にて変更することができる。
附則
本会則は平成27年6月21日より施行する。
現代医学との関連について
現代医学との関連について
(これまで関わってきた研究をベースとした一私案)
仏教では渇愛という汚れた心の働きによって苦が生じるとされます。渇愛は百八とも八万四千ともいわれる多くの煩悩を生じ、病気を含む諸々の苦の原因となります。煩悩には怒り、鬱(昏沈)、躁(掉挙)、後悔(悩)、倦怠感(睡眠)などの多くの感情が含まれています。感情は表情として表われるとともに、生理機能とも密接に関係しています。近年、喜びなどのポジティブな感情は気分をリラックスさせるとともに副交感神経の活動を高め、免疫機能を向上させること、一方怒り、抑鬱、不安などのネガティブな感情は逆の結果をもたらすことが明らかになってきました。
代表世話人は現在、顔の表情と感情の関係を研究しています。指を使って受動的に顔の表情を変えるだけで、ある感情が生じる、あるいは気分が変わることを明らかにしつつあります。例えば指で両目を受動的に開けると、数分で気分がすっきりして頭が冴えた感覚になります。感情評価テストでも、活気度が増す一方、鬱や緊張、不安、怒りなどのネガティブな感情が減少する結果を得ています。脳波の測定では、特に前頭部でα波が増大しました。これは目開けによって前頭部の脳活動が鎮静化していることを示しています。現在、これを検証すべく、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて脳活動を調べております。まだ実験進行中の段階ですが、前頭前野の最前部、前頭極皮質と呼ばれる部位を中心に脳活動が減少するという結果を得つつあります。この結果は脳波測定の結果(前頭部の脳活動が鎮静化する)と一致しております。前頭前野は脳の最高中枢であり、知(思考など)、情(感情、気分)および意(意思及び行動の決定過程)を担っています。前頭極皮質は将来の予測や自分が行った決断の評価に関係するという研究結果がありますが、まだ働きの多くが解明されていない脳部位です。感情評価テストの結果も併せて考えると、目を大きく開ける事であれこれと活発に働いていた心の動きが静まり、その結果、心の働きを統括する前頭極皮質の活動が減少したのではないかと考えられます。鎮静化した心の状態で、バイアスをかけることなく自己および周りの現実を正確に認識するなど、今まで提唱されてない何らかの機能に重要な働きをしているのではないかと、現段階では考えています。この研究の発展はさらに顔の表情を超えて、体の静的・動的表現(姿勢や舞踏など)と感情/気分、および生理的反応の三者は密接不可分である、すなわち一つを変化させると他の二つも相応に変化するというような生命機能発現の新たな原理の開拓に繋がるのではないかと考えています。今後さらに、新しい視点から脳機能の解明を進展させることを目指しています。
体の痛みや内臓の不調を軽減する方法として鍼、灸、按摩、漢方薬などが古くから使われており、世界に誇る東洋の医療として認知されていることは皆さんよくご存じのことと思います。しかしながら、少し古い年代の人は、漢方医学は迷信として片付けられ、現代医学からは相手にされていなかったことを記憶しておられる方も多いと思います。これが転機を迎えたのは1972年ニクソン大統領が国交樹立のため訪中した際、中国の針麻酔による手術が世界中に報道されたことにあります。世界中の科学者が針麻酔の科学的解明を試み、脳内鎮痛物質の作用に関する一定の成果を上げました。また、鍼灸は皮膚や筋肉を刺激する方法ですが、この刺激により、内臓の働きが脳と脊髄を介して神経性に調節されることを、当時東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター)におられた故佐藤昭夫博士が初めて明らかにしました。私もかつて佐藤先生に師事し、その一端について研究しました。現在、特に鍼や指圧、温冷湿布の効果が欧米の研究者から注目されており、内蔵調節機構のさらなる科学的解明に向けて世界中で非常に多くの研究がなされています。
現代医学を補う医療として、民間療法あるいは代替療法といわれるものがあります。その多くは科学的に解明されておらず、鍼灸や漢方薬もかつてはその範疇にありました。健康法も含めて怪しげなものも多くあるように思いますが、現代医学では克服できない病気も沢山あり、民間療法を正しく判断しないと医学は成り立たない時代になってきました(代替療法の医学的証拠、米国医師会編、田村康二訳:2000年)。古くから伝えられている治療法の中には科学の対象になり得るものも多々あると思います。現在科学的に証明されていないからといって迷信であるとは限りません。測定技術の進歩に伴って、将来検証できる可能性があるからです。瞑想の研究について先ほど述べましたが、人の脳の活動を測定する革新的な技術が開発されたことにより、これまで未知あるいは眉唾とされてきたことが科学的に明らかにされつつあります。科学的方法論に基づいて合理的に判断し、有効なものは医療として活用していくのが人類の福祉にかなうことであると思います。
※代表世話人の研究リストなどについては
researchmap(外部サイト) をご参照ください。